昨今では、脳の影響に良いとされるピアノレッスン。発達障害にも一定の効果があると謳われ、問い合わせを頂く事がとても増えました。
 この記事は何度か書こうかどうしようか悩んでやめることもありましたが、去年から月に数回問われるので、書くことにしました。

 私は専門医ではありませんが、講師養成学校時代に音楽療法を勉強したり、研修先や講師になってからも出会った何百名の生徒さんと触れ合う中で、数名の生徒さんに発達障害(グレーゾーン含む)に悩む親御さんを見てきました。
 実を言えば、私の身内にもADHDの人がいたり、夫は発達障害グレーゾーンであったり、2歳になる息子も若干の傾向が見られます。また、私自身も仮面うつ病という、精神疾患を抱えながら仕事をしています。
 育ってきた地区も障害児を受け入れる学校で、同じ学年にダウン症の子がいたり、知的障害の子がいたり、水頭症や筋ジストロフィーで亡くなってしまった子や、盲人のお父さんがいる子など常に身近な誰かは障害を抱えていました。
 そのため、ピアノ教室で「うちの子、障害があって……」と入会を躊躇う保護者の方からの相談が来ても、何の偏見もなく「じゃ、まず体験レッスンからやりましょう」という即受け入れをしています。

 障害を抱えるお子さんを持つ保護者の方は、いつも悩んでおられます。一児のグレーゾーンを抱える私もですが、出来たことにとても感動し、じゃぁ次はコレと言っても子どもが出来ないと一喜一憂。子どもを寝かしつけた深夜、寝床でスマホを片手に情報をググりまくる日々。
 障害の度合いは違えど、この子は無事に独り立ちできるところまで行けるのかという漠然とした不安。……祖父母からは可哀想扱い、配偶者からは何とかなるだろうと突き放され、友人からは大変だねぇと同情されながらも徐々に距離を置かれ、悶々とした中で心配な我が子が機嫌よく歌を歌ったり踊ったり、おもちゃのピアノを弾いたりしたら――。
「あーーー!! もしかしたら、ピアノ習わせたら何とかなるんじゃない?」
 という、一縷の望みをかけた発想の元、音楽教室の体験を受けてみようと、ポチっと体験申し込みをして来られます。

 私がいつもお伝えしているのは、「お子様のことを一番に考えてね」という健常児の方にもお伝えしていることです。
 習い始めるきっかけは作ってあげて良いと思いますが、講師との相性・レッスンの内容・子どものやる気……によっては、合う合わないがあります。
 これは障害のあるなしに限らず、誰にでも当てはまります。
 私じゃ合わなかったけど、別の先生なら合ったよということもあるので、いろいろな教室を探るのも良いと思います。
 ただし、健常者と異なるのは、「個人レッスン」をおススメします。
 集団が苦手な子が多く、本人だけでなく送迎する親御さんの負担もかかるので、個人でマイペースにする方が集中できます。

 竹成音楽教室では、既存のテキストを使う場合もありますが、その日の生徒さんの気分や様子によってピアノを弾いたり、一緒に転がったり、時間と空間を共有しているよ、というところからスタートします。
 一見、遊んでいるように見えるし、全然ピアノ弾かないなら意味ない……と真面目なお母さんからは不満が見られると思います。
 おそらくお家でもお子さんのダラダラしたマイペースに叱ってしまったり、嫌々に困ったり、どうしたら良いの!?とパニックになると思います。
 が、これが実は一番大事なことで、パーソナルスペースを縮めて、その子の世界にピアノ講師がちょっとだけお邪魔させてもらって、一緒に楽しいことして、時間になったらさよならね、また今度ねという繰り返しの習慣がつくと、だんだんと「ピアノレッスンやってみるか」という気分になるのです。
 その気分にさせるには、個人差がとてもあり2~3年かかることもあります。
 場面緘黙症のケースだと、沢山しゃべってくれるまでに5~6年かかったこともあります。その間、話したい事は手紙でやりとりしていました。

 ピアノレッスンを通してお子様の成長に何をしてあげられるのか、その答えは生徒さん一人ひとり違いがあります。
 ピアニストになるぐらい、すごくピアノを弾けるようになるのは本当に稀な話です。確かに尋常じゃないくらい絶対音感を持つ子もいますが、絶対音感を持ってしまって苦しむ場合もあります。
 ある生徒のケースでは、耳で聞こえた音と全く同じ音にこだわりを持つ子がいました。微妙な周波数の違いが気に入らず、家のピアノの音がおかしいと調律を年に数回していました。
 その子はすぐに譜読みもできて、どんなに難しいクラシック曲でも一週間で両手で仕上げてきてしまう、ある意味才能を持っていたと思います。
 しかし自分で楽譜を書くワークは苦手で全くできませんでした。当時の私は「何で読めるのに書けないんだろう?」と思いましたが、その子にとっては書いているときに音が聞こえない――書く鉛筆のなぞり音とワークの譜面が一致しないという理由でした。
 以来、音符の書き取りワークは、その子の負担になると思い、やめました。書けなくてもピアノが弾けたら良いからです。ただ、音楽のテストなどでは不合格でしょうから、将来テストを受けるときには困るかもしれません。ですが、配点は高くないでしょうし、何かの拍子に一致したら書けるようになるかもしれない。生活上、必要ではないので気にしないことにしました。
 逆のケースだとこういったソルフェージュや楽典がしっかり出来るけど、ピアノ演奏になると全く弾けないといったこともあります。
 そんな子は中学生になった時には、ソルフェージュワークを10分したら、ピアノ弾く時間に数学の問題集を持ってきて、中間試験や期末試験の勉強をしていました。時にはギターを弾いたりと自由に楽しんでいました。
 ピアノを習いに来たのに全然違うことをする……それでもお子様をサポートして送迎してくださった保護者の方には感謝しつつ、長い目で成長を見守ってくださる心を持っているなと思いました。

 うまくレッスンが続いて良好な結果が得られたのは、保護者の方がおおらかな心でサポートしていることも要因になっています。お子様のためにと意気込んて来られる親御さんが多いですが、肩の力を抜いて30分だけのレッスンですがお子様を教室に預けて、保護者の方の息抜き時間や見つめなおす時間になれれば幸いだと思っております。
 竹成音楽教室に通ってみたけどダメだったよ……という方は、また別の教室で相性の合う先生や、別ジャンルのカルチャー教室であったり、療育の先生であったり、人生の転機になる出会いがあるよう願っております。